スマホとiPhone~常識覆るAppli業界

口コミやレビュー

(2011年12月12日 日経ビジネス)

スマートフォンの普及は国内アプリ業界の商慣習を崩し始めた。口コミ(クチコミ)やレビュー、評判が市場の動向を大きく左右する時代になった。

アイフォーンやAndroid

グローバルに開かれた市場では、市井の若者が一夜で世界的ヒットメーカーに変身する。

NTTドコモ

NTTドコモが始めた「iモード」でモバイル市場の最先端を走っていた日本。しかし、いくら普及してもiモード利用者は日本国内に限定されていた。だが、スマートフォンのアプリは違う。iPhoneやAndroid搭載スマホのユーザーは世界中に広がる。そのため、ユーザーのニーズをつかんだアプリを開発すれば、巨万の富を築くことも夢ではない。

アプリビジネス
ゲーム機

しかも、スマホは従来の携帯電話と異なり、時にはゲーム機に、時には携帯音楽プレーヤーに、時には携帯テレビにと早変わりする。多機能という特性ゆえに、開発者は自らのアイデア次第でアプリの幅を限りなく広げられる。「スマホはアプリビジネスの既存ルールのすべてを変えた」と言われるのはこのためだ。

ダブルロックゲームス

岩瀬健二朗氏ら

だからこそ、自らの才覚を試せる新市場に、夢を抱いて飛び込む人々が後を絶たない。2011年春、ダブルロックゲームス(東京都中央区)を立ち上げた3人もこうしたチャレンジャーだ。岩瀬健二朗氏、岩崎琢也氏、宮田隆氏は3人とも30代前半の同世代。「安定した生活を取るか、それとも不安定でも面白いことをしたいか。僕らは後者を選んだのです」。岩崎氏は起業を決断した理由をこう明かす。

スクウェア・エニックス

ファイナルファンタジー(FF)

3人は2011年春まで大手ゲーム会社スクウェア・エニックスに勤務していた。スクウェア・エニックス社の名作ゲームソフト「ファイナルファンタジー(FF)」のプログラミングやデザインに関わっていたのだ。彼らはその環境を捨て、新たな活躍の場としてスマホ向けアプリ市場を選んだ。「これまで僕らはゲームマニアのためだけにゲームを作ってきた。けれど、一般大衆に普及したスマホでは、その“枠”にとらわれずに開発できる」と岩瀬氏は意気込む。

MusicGirl音々

3D(3次元)キャラクター
ポイントがたまる

ダブルロックゲームスが4カ月の開発期間を経て、リリースしたアプリが「MusicGirl音々」だ。一風変わったコンセプトのこのアプリは、3D(3次元)で描画されたキャラクターと一緒にiPhoneに入っている音楽を聴く音楽プレーヤー。3人がFFで培った技術力や表現力を存分に生かし、キャラクターの動きにリアリティーを持たせた。キャラクターと一緒に音楽を聴く時間が長いほどポイントがたまるといったゲーム的要素も強い。

デジタルアイテム
音声販売

もともとは広告媒体として価値の高い長時間利用してもらえるアプリを作ろうというところから開発が始まった。しかし、キャラクターのデジタルアイテムの有料販売を始めたところ、これが当たった。2011年9月15日にリリースしてから11月中旬までで約8万ダウンロードされているが、この期間、8500個のアイテムを販売した。今後はキャラクターの音声販売も手掛ける。

開発期間
新市場

「FFに比べ開発期間は短く、予算も比べものにならないくらい少ない」(宮田氏)。それでも3人は新市場に挑む今が一番楽しいと言う。

洛洛.com

beauteCam SNS(ボーテカム・エスエヌエス)
ベンチャー企業

洛洛.com(京都市中京区)も新サービスを引っ提げて世界展開を狙うベンチャー企業だ。洛洛.com社が12月に開始する「beauteCam SNS(ボーテカム・エスエヌエス)」は、日米の双方で同時リリースする。既に11月には米サンフランシスコに支社を設立した。

30倍レンズ
「キメ」「シミ」「毛穴」「水分量」「皮脂量」

beauteCam SNSはiPhoneに専用の30倍レンズをつけて肌を診断し、ユーザーが化粧品情報などを共有するアプリだ。専用レンズは280円で購入できる。拡大撮影した画像から「キメ」「シミ」「毛穴」「水分量」「皮脂量」を読み取り、独自指標で5段階評価する。フェイスブックやツイッターと連携するため、ソーシャルメディア上から似た肌質の人を探せるほか、自分と同じ肌質の人が使っている化粧品のランキング情報なども入手可能。

安達貞雄社長

潜在ユーザー
肌質の世界ランキング

「百貨店の化粧品売り場で肌診断すると、押し売りされるケースもある。それが嫌だという女性は多く、こうした人たちを潜在ユーザーに想定した」(洛洛.comの安達貞雄社長)。海外でも同時リリースするため、肌質の世界ランキングも可能だという。

崩れ去る国境という名の壁

鈴木仁士氏

市場が世界に開けているなら、最初から海外で起業しようという若者もいる。顔に幼さが残る22歳の鈴木仁士氏も、そんな1人だ。拠点に選んだのは、世界中から起業家や投資家が集い、次々と世に新しいものを生み出していく聖地、米カリフォルニア州サンフランシスコだ。

Wondershake(ワンダーシェイク)
GPS(全地球測位システム)

「世界で勝つ会社を作りたかったから」。米国での会社設立の理由について飄々と答える鈴木氏が制作したiPhoneアプリは、「Wondershake(ワンダーシェイク)」。スマホに搭載されているGPS(全地球測位システム)機能を使った位置情報を基に、嗜好が似通ったユーザー同士をつなげるサービスだ。

公開プラン
東京エリア

現在、Wondershakeは東京エリアでのみ利用できるが、米国では大学単位で公開するプランを描く。「シリコンバレーで勝てれば、世界で勝てる」。こう語る鈴木氏はスマホを世界企業と戦える土俵として見る。

世界のユーザー

一方、日本で開発しても、意図せぬ形で世界のユーザーから支持されるアプリもある。

ネイバージャパン

舛田淳・事業戦略室室長チーフストラテジスト
LINE

「もともと日本向けのアプリと位置づけていたが、急遽グローバル対応アプリに位置づけを変えた」。こう語るのはネイバージャパンの舛田淳・事業戦略室室長チーフストラテジスト。ネイバージャパン社が開発したアプリは利用者同士が無料通話したり、メッセージを交換したりするコミュニケーション用途のアプリ「LINE」だ。

中東の利用者の間で流行

2011年6月に提供開始したアプリは8月下旬、突如、なぜか中東の利用者の間で火がついた。

アップル

App Store

8月28日、クウェートで米アップルが運営するアプリマーケット「App Store」でダウンロード数1位を獲得。8月29日にはサウジアラビア、カタール、バーレーンで、8月30日にはアラブ首長国連邦でも1位になった。その後はシンガポール、マレーシア、台湾、マカオ、香港、タイと様々なエリアでトップの座に就くなど、国境を越えた広がりを見せ、11月27日時点でダウンロード数が700万件を突破した。

スマホアプリ市場
国境を超える

「スマホの登場で国境が曖昧になったのかもしれない」(舛田氏)。iモード向けサービスでは国境を越えられなくても、スマホ向けのアプリであれば容易に国境を飛び越える。「いいものを作れば、どこの国の人でも見つけてくれる」(舛田氏)。この点こそ、スマホアプリ市場の特性と言える。

ガラケー(ガラパゴス携帯電話)

日本独自の携帯市場

「ガラケー(ガラパゴス携帯電話)」と揶揄された日本独自の携帯市場では絶対に見られなかった現象だ。海外に進出するからといって、現地法人を作る必要もない。すべてが最初から世界に開かれている。それが新しく勃興したスマホ市場だ。

押し寄せる変化の波

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)運営会社
主要収益源

ただ、スマホの急速な普及で、今後の戦略をいかに構築していくべきか戸惑っている業界もある。代表的なのはネット広告を主要収益源とするSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)運営会社だ。

ミクシィ
下方修正

ミクシィが運営するSNS「mixi」の場合、2011年1月時点には10%近辺だったスマホからの利用率が9月時点では3割近くまで増えた。ただ、従来のパソコン向けやガラケー向け広告が、スマホ向けで有効かどうかは不透明。そのため既存の広告主も、出稿を手控え様子見する傾向が強まっている。その結果、ミクシィは広告収入の減少で2012年3月期の連結経常利益予想を下方修正した。

Android OS搭載スマホ

米グーグル
調査会社コムスコア

アプリ開発者の間では、複数あるスマホ用OS(基本ソフト)のうち、どれを主軸プラットフォームに選んで事業展開するかでも迷いが生じている。調査会社コムスコアのモバイル調査サービス「モビレンズ」によると、米グーグルのAndroid OS搭載スマホの出荷台数は、先行する米アップルのiOS搭載iPhoneを2011年に追い越し、利用者数では引き離しにかかっている。

ジェネシックス冨田憲二取締役
Androidマーケット

だが、今のところビジネス環境が整っているのは圧倒的にiPhoneだという。アプリ開発を手がけるジェネシックスの冨田憲二取締役は「Androidアプリの課金率は圧倒的に低い」と明かす。(1)そもそもアプリ販売の場である「Androidマーケット」の集客力が弱い(2)Android端末を利用する層は有料アプリの購入に積極的ではない――といった理由があるようだ。ジェネシックスではこうした要因の下、Androidスマホのシェア拡大に関係なく、iPhoneアプリを事業のメーンに据えている。

スマホOS
コンテンツビジネス

どのスマホOSを事業の主軸に置くかはともかく、従来のガラケー向けアプリを延々と開発し続けていたのではジリ貧になるのは確実。実際、過去にiモードの普及とともにコンテンツビジネスで急成長を遂げ、JASDAQに上場したインデックスは環境変化についていけず、2011年大幅なリストラを敢行した。

エムティーアイ(MTI)
mopita(モピタ)

コンテンツを事業の柱にしてきたエムティーアイ(MTI)も、有料会員数は2011年3月時点の973万人をピークに減少し、2011年9月には894万人まで減った。半年間で80万人近くを失った計算だ。危機感を強めたエムティーアイ(MTI)社はアプリ開発にとどまらず、スマホ向けアプリの新たな売り場である巨大アプリマーケット「mopita(モピタ)」を構築した。

月額課金
アプリ開発会社

mopitaはAndroid OS向けアプリを販売する市場。グーグルが運営するAndroidマーケットには月額課金などのシステムがないが、mopitaはこうした機能も付加して集客を図る。さらにmopitaではMTI製アプリだけでなく、他社製アプリの販売も手がける。他社製アプリが売れた場合、MTIには手数料収入が入る。スマホの普及は、アプリ開発会社だったエムティーアイ(MTI)社の業態を広げる結果にもなっている。

会員数150万人

>11月末時点でのmopitaの会員数は150万人。掲載されているアプリやコンテンツは有料、無料を含めて600個近くに達する。今後、販売数量が膨らめば、MTIにとって新たな収益源になり得る。

宮本大樹mopita事業部副事業部長
コンテンツ開発会社

スマホの普及が様々なチャンスを生み出したのは確かだ。しかし、見方を変えればアプリ開発企業にとって、従来手法が通用しないより競争の激しい世界とも言える。「通信会社に依存し過ぎたこれまでのやり方を改めなければならない」とMTIの宮本大樹mopita事業部副事業部長は気を引き締める。従来のモバイル向けアプリでは、通信会社が課金システムなどをすべて構築してくれていた。今後は、コンテンツ開発会社が自ら、課金や料金回収の仕組みなどに知恵を絞る必要がある。

勢力図
群雄割拠状態

ルールが変われば勢力図も変わる。まさに今は大小のコンテンツ開発会社が入り乱れる群雄割拠状態だ。だからこそ、世の中には面白いアプリが続々と登場する。次ページからは、ビジネスパーソン必見のアプリを紹介する。

アプリにかける起業家たち

才能溢れる人材が新興市場に集う。

主なアプリ開発を手がけるスタートアップ企業

社名 / 設立日 / 事業概要

洛洛.com / 2006年10月 / レンズを装着して肌診断できるアプリ「beauteCam SNS」などの開発

ダブルロックゲームス / 2011年4月 / 音楽プレーヤー「MusicGirl音々」などのゲーム開発

ザワット / 2011年5月 / 願望を持つ人と解決策を持つ人のマッチングアプリ「WishScope」の開発

Active node / 2011年6月 / 写真をベースに連絡できる新コンセプト連絡帳「FRAME IN」の開発

FrogApps / 2011年7月 / 豊富な写真機能を搭載した飲食店発見アプリ「miil」の開発

米ワンダーシェイク / 2011年8月 / 位置情報と連動したコミュニケーションアプリ「Wondershake」の開発

米アップグルーブズ / 2011年8月 / 最適なアプリを探せる推薦アプリ「AppGrooves」の開発

シンクランチ / 2011年8月 / ランチを人脈作りの場に変えるアプリ「ソーシャルランチ」の開発

ピリカ / 2011年11月 / ゴミ拾いを軸にコミュニケーションを図るアプリ「PIRIKA」の開発

Compath.me / 2011年12月 / 位置情報と連動した写真投稿で交流するアプリ「Compath.me」の開発

大作「ファイナルファンタジー」の開発に携わっていた3人が独立。左から岩崎琢也氏、岩瀬健二朗氏、宮田隆氏

肌状態

女性の悩みに焦点~化粧品業界に革命起こす。化粧品情報を交換。

beauteCam SNS

洛洛.comはiPhoneに専用レンズを装着して肌状態を解析し、化粧品情報を交換する「beauteCam SNS」を開始

ワンダーシェイク

22歳ながら今年8月に米サンフランシスコで起業した米ワンダーシェイクの鈴木仁士代表

無料通話アプリ「LINE」

軽々と越境するアプリ。中東で思わぬヒット

海外AppStore
総合1位

無料通話アプリ「LINE」は海外のAppStoreで総合1位を次々獲得

国・地域名 / 1位獲得日

クウェート / 8月28日

サウジアラビア / 8月29日

カタール / 8月29日

バーレーン / 8月29日

アラブ首長国連邦 / 8月30日

シンガポール / 10月10日

マレーシア / 10月11日

台湾 / 10月13日

マカオ / 10月13日

香港 / 10月13日

タイ / 10月15日

mixi

スマホ利用の拡大でSNS市場にも変化

スマホからの利用率

mixiは今年に入ってからスマホからの利用率が急増、業績悪化の一因になった

注:月間ログインユーザー数をベースに算出

どのOSを選ぶかアプリ開発者は悩む
モビレンズ

国内ではAndroidの利用者数がiOS利用者を圧倒するも、アプリの課金率が低く開発事業者は悩む

出所:調査会社コムスコアの「モビレンズ」(メーンの携帯電話のみを対象に調査、拡張母集団1億170万人)

mopita

コンテンツ会社も自前で売り場構築

決済・ポータル(玄関)機能を提供するmopitaの仕組み